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東京高等裁判所 昭和52年(く)219号 決定

少年 N・H(昭三三・一二・二八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年の法定代理人親権者(父)N・O作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は次のとおり判断する。

所論は、少年を中等少年院に送致した原決定に不服であるというのであつて、不服の趣旨は必ずしも明瞭ではないが、処分の著しい不当を理由とするものであると認められるので、以下この点について検討する。

本件記録(少年保護事件記録および少年調査記録)によれば、本件の事実関係は、原決定が認定判示するとおり、少年が、原判示日時、場所において、いわゆる暴走族グループの仲間とともに、普通乗用自動車を停車していた際、暴走族の不法行為を警戒中の千葉県警察本部交通部交通機動隊勤務警部補○○○○らに職務質問をうけるや、無免許運転の発覚をおそれ、同警察官らの制止を無視して、同警察官めがけて発進し、同警察官が避譲するや、その脇をぬけて逃走し、もつて、警察官に暴行を加えて、その職務の執行を妨害し、右日時場所において、公安委員会の運転免許を受けないで普通乗用自動車を運転したというのであつて、関係証拠によれば、少年は、中学卒業後、銚子市内で調理師見習、塗装工などして稼働したが、いずれも長つづきしないでやめ、昭和五一年一〇月以降は定職につかず、家人に無断で友人宅に泊り込むなど、好き勝手な生活をつづけて来たこと、少年は、以前に道路交通法違反(無免許のバイク運転)、恐喝の非行をおかし、二回にわたつて千葉家庭裁判所八日市場支部において審判不開始ないし不処分に処せられた非行歴があるほか、同五一年八月ころから「○」(○○○○○)と称するいわゆる暴走族グループに加わり、月二回の集会に参加しているうちに、同グループのリーダー格となり、同五二年五月ころ、対立する暴走族「○○」のグループと抗争事件を惹起し、相手方の自動車二台を損壊して、警察の補導をうけたことがあるにも拘らず、何ら反省することなく、本件非行に及んでいること、少年の本件所為は、暴走族のグループと原判示道路で停車中、前記○○警察官らの職務質問をうけた際、先行車三台が急に発進して逃走したのにつづいて少年も急発進して逃走しようとしたところ、同警察官がその進路前方に立ちふさがり、携帯用赤電灯を回転させながら停止の合図をしたのを無視し、時速約三〇キロメートルで同警察官めがけて突込み、同警察官が危険を感じて道路左側端に避譲するや、速度をゆるめることなく、さらに突進し、同警察官が少年車とがードレールにはさまれそうになつて、同車のボンネットに両手をついて飛び上るようにして避譲したというのであつて、少年の行為は人命を軽視した、著しく無謀かつ悪質なものといわなければならないことが認められ、以上の諸事実のほか、原判示のような少年の素質、環境、生活歴、少年の家庭における保護監督能力の実情、程度等を合わせて考えると、少年を在宅のままで更生指導することは困難であり、中等少年院に送致するのが相当であると認めた原決定の処分が著しく不当であるとは認められないから、論旨は理由がない。

そこで、少年法三三条一項後段により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 綿引紳郎 裁判官 石橋浩二 藤野豊)

原審決定(千葉家八日市場支 昭五二(少)五二五号 昭五二・九・一決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

I 罪となる事実

少年は

第一 昭和五二年八月七日午前〇時〇分頃、千葉県銚子市○○町××××番地路上において、いわゆる暴走族グループの仲間とともに、普通乗用自動車を停車していたところ、折りから暴走族の不法行為を警戒のために取締中の千葉県警察本部交通部交通機動隊勤務警部補○○○○らに職務質問を受け、この際、無免許運転の発覚を恐れ、警察官らの制止を無視して発進し、警察官に向けて進行し、警察官が待避するや、パトロールカーや警察官の間を抜け、ガードレールの間から歩道に入つて進行するなどして逃走し、もつて警察官の職務の執行を妨害し

第二 上記、日時場所において、公安委員会の運転免許を受けないで普通乗用自動車を運転したものである。

II 適用法令

第一の所為につき刑法第九五条第一項

第二の所為につき道路交通法第一一八条第一項第一号、第六四条

III 処遇理由

一 本件非行は、自動車をもつて、いわゆる暴走族の違法行為を取締中の警察官やパトロールカーの間を抜け、歩道を通過し、途中、自己が運転する自動車の車体に警察官の身体が触れたことを認識しながら、なお逃走しようとするなど、少年の遵法精神が著しく欠けていることおよび無軌道な生活を送つていることを示している。

二 いわゆる暴走族は近年組織を次第に広大化し、グループどうしの抗争を原因とする暴力団まがいの集団暴行事件も多発し、また、その日頃の行動も、単に車輛をもつて道路交通法を無視して走行するに止まらず、地域住民に多大な迷惑を与えているものであるが、少年は、無免許でありながら「○」と称する比較的大きなグループに積極的に参加し、地域警察署にはリーダ格と見られている。

三 少年は、中学校時代は、成績が悪く、遅刻や欠席も多く、学習意欲も欠けていたものの非行はなかつたが、昭和四九年三月中学校を卒業するや、(1)同年六月から一〇月までの間に年下の中学生から現金を喝取する非行を四件犯し、(2)同年九月二八日にはオートバイの無免許運転を犯し、上記(2)については同五〇年一月三一日不処分の上記(1)については同年六月一八日審判不開始の決定を受けた。そして、昭和五一年八月ころから、前記「○」と称するグループに加わり、同五二年四月には、「○○」と称する暴走族グループとの対立抗争事件により、警察署に補導され、反省の機会を得たにもかかわらず、本件非行を犯すに至つている。

四 少年は、中学校を卒業後、板前や調理師の見習をしたり塗装工などをして稼働していたが、いずれも長続きせず、昭和五一年一〇月ころからは徒食を続け、時には友人宅に一か月も泊り込んで、家人には所在が判明しないこともあるなど、乱脈な生活を送つていた。

五 少年は知能に劣り(IQ七七)、事物を見通す能力が弱く、自己抑止力が不足していて、性格は厭き易く、怠惰である。

六 少年の父母は善良であり、家族間の親和状況も良好であるが、規律に欠け、少年に対する指導力が劣る。

七 以上、本件非行の内容、少年の非行歴、能力、性格、交友関係、保護者の保護能力等を総合すると少年を在宅のまま更生に導くことはかなり困難であり、少年に対する保護処分は中等少年院送致をもつて相当とするが、審判において少年、保護者ともにこれまでの生活を反省し、更生意欲も有すると認められるので、まず、短期処遇課程を試みることを勧告するものである。

よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項後段、少年院法第二条第三項を適用して、主文のとおり決定する。

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